オーディオの始まり
人々が「機器」を通し「音」を楽しむようになったのは150年ほど前の1877年、エジソンによる蓄音機の発明から脈々と現代まで受け継がれています。
最初の蓄音機は円筒型のものが開発され、その10年後にベルリナーの手によって現在のアナログプレーヤーと同様の円盤式が開発されるようになります。
この蓄音機が音楽を楽しむものとして世に広まりオーディオというものが根付いていくわけですが、当時の音はモノラルで、まだステレオという概念すらない時代でした。
モノラル時代の幕開け
円盤式の蓄音機を開発したベルリナーは同志とともにビクターを設立し、新たな蓄音機を次々と開発してきました。
エジソンも円盤式を取り入れた商品を開発しますが、ビクターの勢いに負ける形で規模が縮小していきました。
オーディオの幕開けはビクターが覇権を握っていました。
当時の録音方式はホーンで音を収音していくアコースティック録音が主な録音方式でしたが、マイクを使用した電気録音が始まると音質が格段によくなりました。
蓄音機自体も進化が進みラジオが聞けるものや再生自体も電気で行えるものが開発されてきました。
この電気で再生するものこそ今のアナログプレーヤーの先祖ともいうべき商品で、今までに比べ針に負担が少なくまたレコード盤への負担も軽くいい音をスピーカーから再生できました。
1948年にLPモノラルレコードが誕生し、よりモノラルオーディオの時代が華やかになりました。
従来のレコードは再生するときの回転数が78rpmと早く、5分以内くらいの限られた情報しか録音することができませんでしたが、LPレコードはその4倍ほどの情報量を録音することができ、またレコードの素材が天然樹脂から合成樹脂のビニールに変わることによりノイズの低減にもつながりました。
ステレオ時代の到来
ステレオによる音の研究や実験がされてきたのは実は1900年よりも前のこと、最初の実験は2系統の電話を用いて演奏された音楽を送信し2つの受話器を両耳に当てるというもので、今でいうヘッドホンに近いことが初めてのステレオ実験と言われています。
当時実用化されたばかりの電話は今と比べても音質は期待できるようなものではないことは言うまでもありませんが、両耳に当てて演奏を聞くということに対してはすごく高評価であったことから、ステレオの魅力というものに気付くのは相当早かったと思われます。
その後も数々の実験がされ、レコードでもステレオ再生できないかと研究がされてきましたが実用レベルには至りませんでした。
レコードの素材が天然樹脂のシェラックから合成樹脂のビニールに変わり細かい溝のカッティングが可能となり、1958年にステレオレコードがついに実用化されました。
溝に45度の角度をつけて、その左右に1チャンネルずつ音を刻んでいく方式が主に採用されましたが、この発想や技術、特許は1933年には確立されていたというのが驚きです。
これにより趣味として楽しむオーディオにはステレオ再生が根付いていきました。
モノラルとステレオの違い
そもそもモノラルとステレオとはどういった違いがあるのでしょうか。
モノラルは1つの入力から音を録音し、1つの出口から音を再生する方式です。
例えば身近なもので言うと電話で話す時がこのモノラル再生と同じです。
1つの入出力ですべての周波数帯を扱うので音に立体感や臨場感が生まれず、シンプルに音を聞くという感じになります。
次にステレオとは左右それぞれ別の系統から音を録音し、左右それぞれから音を再生する方式です。
これにより左右のスピーカーの間にも音場が生じ、ボーカルが真ん中でそれぞれの楽器の立ち位置が鮮明に分かるように音の立体感が生まれます。
モノラルとは違い表現力の豊かさがオーディオを楽しむ上でも重宝されるところではないでしょうか。
現代のステレオ再生が主流になったオーディオを慣れ親しんだ人からするとやはり音のリアリティなところに欠ける気がしてくると思いますが、今でもモノラルの価値はあります。
例えば先ほどの例の電話や商業施設や学校、地域の町の放送などはどれもモノラルであることにお気づきでしょう。
大衆に広く知らせるという分野やある一つの音しか再生しないような状況などはステレオである理由はなく、モノラルのシステムの方が構築しやすいというメリットがあります。
大きな商業施設にいる際でもどこにいても同じように放送が聞こえるのはモノラル再生のおかげなのです。
より臨場感のある音を目指して
モノラルとステレオは上で説明した通りで、それ以上のチャンネルを有する再生方式をサラウンド再生と言います。
ステレオよりもさらに臨場感を得られるので音楽を楽しむよりも映像とともに楽しむ映画とかにこの再生方式が用いられることが多いです。
実際にサラウンドの歴史を遡ってみますと、初めてサラウンド映画として登場したのは1940年に放送されたディズニーの『ファンタジア』と言われています。
当時はステレオにセンターを追加した3chの音声でした。
そこから時代が進み1950年代以降の映画では5.1chのサラウンドが主流となっていきました。
この年代というのは世界に目を向けた値で、日本はというと1980年代になってからサラウンド音響を取り入れるなど音質を重視する習慣があまりありませんでした。
家庭用の機材に目を向けると1980年代後半から徐々に各メーカーサラウンド再生ができる機材を商品化していきました。
デノンでは1985年に、そしてYAMAHAでは1990年に初めてのAVアンプを制作され今日に至るまで様々な商品が世にでて注目されてきました。
また時代が進むごとにスピーカーの数も増えてきました。
家庭用でもベーシックなシステムとして5.1chが挙げられます。
これはステレオスピーカーにセンターを追加、そして自分の後方にサラウンドスピーカーを左右に設置、さらに重低音用にサブウーハーをセッティングしたものが5.1chになります。
小数点以降の数字はサブウーハーの数です。
低音域を強くしたいときには5.2chで楽しまれている方もいらっしゃいます。
最近ではそのさらに後ろに小数点を付けて表記することがあります。
例えば7.1.2chとか…
この最後の2という数字は天井スピーカーの数を表しています。
天井からの音を追加することにより、一層没入感が増し映画の世界にのめり込むことができます。
家庭用で発売されている中で最大チャンネル数のAVアンプはデノンのAVC-A1Hでしょう。
最大で15.4chでサラウンド再生することが可能で様々なセッティングに対応できる可能性を秘めたワンボディに仕上がっています。
自宅で楽しむオーディオシステムのセッティング
さて今までモノラル、ステレオ、サラウンドと音の再生方式を語ってきましたが、どれが一番いいと決めつけるものではありません。
それぞれに長所・メリットがありますし、何よりどんなジャンルやソースで音楽を楽しむかによってもシステムの構築は様々です。
古くからのモノラル録音のレコードを当時の雰囲気で味わいたいという人がサラウンドで音を流すわけにもいきません。
ですのでここからは軽くおすすめの機材を紹介しつつどういうセッティングで楽しめばよいか書いていきたいと思います。
〇モノラル編
モノラルで音楽を楽しまれたい方はおそらく前述のとおり古いモノラルレコードをより楽しみたい方であろうと思います。
そんな方にまずおすすめしたいものは、モノラルカートリッジで再生することです。
ステレオカートリッジで再生しようと思えばできますが、やはり音質や音の厚みなどを考えるとモノラル一択になります。
今でもモノラルカートリッジは作られていますが、1960年代というモノラルがまだ盛んだった時から発売されているデノンのDL-102を私はおすすめします。
モノラルカートリッジを使ったことのある人なら誰しも使ったことがあるほど慣れ親しまれたものではありますが、これほど忠実にモノラル再生ができるカートリッジも少ないことでしょう。
またこのDL-102専用の昇圧トランスも発売されるほどその人気は図りしれません。
しかしこのカートリッジはピンが2本しか出ていませんので、モノラルの音を左右のスピーカーから同時に再生したいときにはY字に分岐したリード線を用意する必要があります。
ここまでアナログレコードの場合を考えて書いてきましたが、中にはCDやPC音源でもモノラル再生がしたいというマニアックな方も一定数いらっしゃることでしょう。
簡単にモノラル再生を楽しむにはミキサーの導入がいいでしょう。
アンプの前にミキサーを挟むことによりそれぞれの音を左右に振らずに真ん中でミックスすることにより、簡単にモノラルでの再生が可能となります。
家庭で使用する分にはそこまで多くのチャンネル数は必要としませんが、安心と信頼のあるYAMAHAの物を個人的におすすめしたいと思います。
〇ステレオ編
これを見ているほとんどの方のご自宅のシステムはステレオ仕様でしょう。
なので特に紹介することもありませんが、アンプにこだわってみるのはいかがでしょうか。
最近のオーディオ機器ではごくわずかなノイズの原因になり得る物を徹底的に排除し、よりクリアな音質を伝送しようと工夫が見られます。
アンプに関しても入力段から出力段にかけて全段左右独立した構造を採用している商品も数多くあり、それだけノイズレスなクリアな音が再生されて広がる音場は昔のアンプからは想像もできないほど鮮やかに聞こえます。
出力が大きく迫力のあるサウンドもいいですが、繊細な音を奏でてくれる機種に注目してみても面白いと思います。
特に最近ではD級アンプの性能がA級やAB級に匹敵するほど優れた音質であることは改めていうことでもありませんが、それだけアンプで音の印象はすごく変わるものなのです。
〇サラウンド編
サラウンドに興味がある方はおそらく映画好きな方でしょう。
自宅にプロジェクターを天吊りしスクリーンに投影して週末を満喫するのは大多数が憧れる生活ではないでしょうか。
しかし実際のところ日本の住宅環境もあり、広い部屋でスピーカーをたくさん置くサラウンドのシステムは夢のまた夢と思われている方もいらっしゃるのが現状です。
そんな方にはまずは3.1chの簡単なシステムから始めることをおすすめします。
どうしても5.1chやそれ以上となると後方にもスピーカーを設置するスペースを確保せねばなりません。
狭い部屋ならスピーカーだけで部屋が満たされてしまいます。
逆に狭い部屋だからこそ3.1chのサラウンドでも十分臨場感を得られるというメリットもあります。
さらに没入感を追加したい方におすすめする商品がイネーブルドスピーカーです。
日本では2014年ごろから流行りだしたもので、天井に向かって音を流しその跳ね返ってきた反射の音をリスナーに届けてくれる疑似天井スピーカーの役割を果たします。
この商品であれば天井に穴をあけることなく同じような効果を得られます。
しかしこのイネーブルドスピーカーという名称を使うためにはDolbyの認証が必要であり、また180Hz以下の音はカットしなければならないため、イネーブルドスピーカーとしてしか使用することができません。
そこでDALIのALTEC C1という選択肢を紹介します。
こちらは多目的な用途で使用できるスピーカーで、まずはイネーブルドスピーカーと同じようにセッティングすることで天井からの反射を聞け、フロントハイスピーカーとして正面上から降り注ぐイメージの音を追加できたり、180Hz以下がカットされていないため、ニアフィールドモニターとしてデスクトップのシステムとしても活用できます。
コンパクトで使い勝手がいいので正直サラウンド用のスピーカーをすべてこのスピーカーに置き換えてもいい音で楽しめるのではないでしょうか。
ペアで5万円ほどで購入可能ということもあり導入のハードルの低さも相まって購入する方がたくさんいらっしゃいます。
ご自身のサラウンドシステムの音質向上にこのスピーカーの導入いかがでしょうか。
さいごに
モノラルサウンドとステレオサウンドの違い。そこから広がるサラウンドサウンドの魅力とは?と題してオーディオの始まりからそれぞれの再生方式の魅力などを語ってきましたが、どれが1番という答えはオーディオにはありません。
その人が楽しめる環境を自分の手で作り上げて構築していくところにオーディオの楽しみがあります。
時には自分の求めている音が分からなくなり、集めた機材を手放して一からシステムを組む方がいるほど、オーディオには奥深さがあり、その沼に足を突っ込んだその瞬間から抜け出せない何かにとらわれる感覚があります。
これからも抜け出すことのできない沼の中で一筋の光を追い求めて、いい音質を追求する毎日に勤しんでいきたいと思います。