「サントリパイ」とは、1970年代から1980年代にかけて日本のオーディオブームを牽引した主要オーディオメーカー3社、「サンスイ(山水電気)」「トリオ」「パイオニア」を指す造語です。当時のオーディオ愛好家の間で親しまれたこの呼び名は、それぞれのメーカーがオーディオ市場で確固たる地位を築いていたことを示しています。本記事では、サントリパイを構成する各メーカーの特徴や、オーディオブームが起きた背景、そして現代におけるサントリパイ製品の価値についてご紹介します。
オーディオブームを牽引したブランド
1970年代から1980年代にかけて、日本はオーディオブームの全盛期を迎えました。この「オーディオ黄金期」と呼ばれる時代において、高品質な国産オーディオ製品が多数登場し、多くの音楽愛好家を魅了しました。中でもサンスイ、トリオ、パイオニアの3社は、特に高い人気を誇り、オーディオブームを牽引する存在でした。
サントリパイを構成するメーカー
「サントリパイ」は、それぞれの分野で強みを持つ3社、サンスイ、トリオ、パイオニアによって構成されていました。各社が個性的な製品を展開し、当時のオーディオブームを盛り上げていました。
アンプのサンスイ(山水電気)
サンスイは、特にアンプ分野で高い評価を得ていたメーカーです。創業者の「山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力」という社是のもと、アンプ用パーツ製造からスタートし、特にトランスの性能が高く評価されていました。1954年には初の自社製セパレートアンプを発売し、その後「AUシリーズ」などのプリメインアンプで一世を風靡しました。なかでも「07」シリーズは現在でも名機として語り継がれており、パワフルかつクリアで歪みの少ない音質が特徴でした。堅牢な作りで耐久性にも優れており、多くのオーディオファンに長年愛用されています。
チューナのトリオ(現:JVCケンウッド)
トリオは、主にチューナーや無線機器の分野で強みを持っていたメーカーです。1946年に春日無線電機商会として設立され、当初は高周波コイルの製造を行っていました。アマチュア無線で培った高周波技術を活かし、FMチューナー分野で特に優位性を確立していました。1960年にはトリオ商事株式会社に社名を変更し、翌年には海外向けブランドとしてKENWOODを設立しました。また、フランスのレコードレーベルの輸入販売や、自社レーベルでの事業展開など、関連事業にも積極的でした。1972年には、後の高級オーディオメーカーであるアキュフェーズの創業者がトリオを退社しています。
スピーカーのパイオニア
パイオニアは、スピーカーやカセットデッキなど幅広いオーディオ製品を手掛けていました。1938年に設立され、オーディオ機器やカーエレクトロニクス分野で革新的な製品を開発し、世界的な評価を得ています。特にカースピーカーやヘッドホン、DJ機器で高いシェアを持ち、音質の良さと先進技術で支持されています。1970年代後半から1980年代前半にかけては、カセットデッキの分野でも評価の高い製品を多く生み出しました。高音質と操作性の良さが特徴で、音の広がりや低音の強さに定評があります。現在はホームシアターやカーオーディオなどのエンタテインメント性の高い製品に注力しつつ、高級オーディオブランド「TAD」も展開しています。
オーディオブームの背景
1970年代のオーディオブームは、いくつかの要因が複合的に影響して発生しました。経済的な豊かさの向上に伴い、趣味にかけられる費用が増加したことが挙げられます。また、各電機メーカーがオーディオ市場に積極的に参入し、競って新しい技術や製品を開発・投入したこともブームを後押ししました。高忠実度再生(Hi-Fi再生)への関心が高まり、より良い音で音楽を楽しみたいというニーズに応える形で、高性能なアンプやスピーカー、プレーヤーなどが登場しました。当時はまだ海外メーカーが技術的に先行していましたが、日本のメーカーも急速に技術力を高め、独自の製品を生み出していきました。雑誌媒体などもオーディオに関する情報を豊富に提供し、オーディオファン層の拡大に貢献しました。
サントリパイ各社のその後
オーディオブーム終焉後、サントリパイと呼ばれた各社は異なる道をたどりました。サンスイはバブル経済崩壊後に経営が悪化し、破産しました。現在はドウシシャが「SANSUI」ブランドの使用権を持ち、一部製品を展開しています。トリオは社名をケンウッドに変更し、その後日本ビクターと合併してJVCケンウッドとなりました。現在も「KENWOOD」ブランドで幅広い製品を展開しています。パイオニアはハイファイオーディオ事業の一部をTADに移管し、自身はホームシアターやカーオーディオ、DJ機器などに注力しています。カーオーディオ分野では現在も世界的に高いプレゼンスを誇っています。各社とも形は変われど、その技術やブランドの一部は現代に引き継がれています。
現代におけるサントリパイの価値
オーディオブームを彩ったサントリパイの製品は、現代でも多くのオーディオ愛好家から価値を認められています。当時の製品は、現在ではヴィンテージオーディオとして扱われ、その独特の音質やデザイン、そして製造された時代の技術的な特徴から根強い人気があります。特にサンスイのアンプなどは、適切なメンテナンスを行うことで現在でも現役で使用されており、その堅牢性と音質の良さがあらためて評価されています。また、サントリパイ各社がオーディオブーム期に培った技術やオーディオに対する思想は、現在の製品にも引き継がれており、現代のオーディオ製品の設計思想にも影響を与えていると言えるでしょう。過去の名機をコレクションしたり、修復して楽しむ文化も根付いており、現代においてもサントリパイは単なる過去のブランドではなく、オーディオ文化の一部としてその価値を保っています。